中山道塩名田宿の中にある、河原宿と言う所はどことなく風情がある。中宿の辺りは道路が拡張されてどこか味気ない印象を受けるが、河原宿の路地に入った途端に時間を遡ったような不思議な感覚に陥いる。
千曲川の渡し場まで緩やかに下る道はお滝通りと言われどこか情緒的な佇まいで、三味線の音や三階の手すりに細い肘を掛け眼下を望む女達の姿が見えるような‥そんな花街の幻影を感じる。芸妓宿の脇からは清らかな湧水が流れ、板張りの休み茶屋がしつらえてあった。湧水の傍には十九夜と書かれた石碑と、原型をとどめない程すり減った観音様が鎮座する。この十九夜塔だが佐久地方や小諸周辺を散策していると時折古い集落の片隅に見られる。
十五夜、十七夜、二十三夜などこれらは日本各地に残る講の一つで、十九夜は安産祈願や穢れからの救済を願う女性達が如意輪観音を信仰し念仏を唱えた事から始まる。ここ塩名田宿では旧暦の4月19日に女性達が集まってお祭りが行われていたらしい。かつては家からなかなか出る機会の少ない女性達の数少ない娯楽の場であったのだろう。
十九夜塔から更に下ると千曲川の渡し場に着く。中山道で唯一千曲川と合流する塩名田宿には船橋(注1)が架けられていたが、ひとたび大雨に見舞われると橋は流され旅人はいく日もここで逗留する事になった。昭和の時代になってようやく架けられた中津橋。川の北側には舟つなぎ石が今も残る。
ここ中山道塩名田宿は、江戸から数えて23番目の宿。佐久平駅からは車で20分ほどの場所にあります。
注1 船橋とは、船を横に並べてつなぎ、その上に板を渡して橋としたもの。別名浮橋