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和ばさみのはなし その三

今回は裁ち鋏についてのお話です。

U字型のにぎりばさみに対してローマをルーツとするX型はさみは正倉院の御物の中に見られる所から8世紀には日本に入っていたと思われます。X字型のはさみはてこの原理を利用し力のかかる仕事、主に生け花や植木ばさみ、下駄屋ばさみなどの分野でその力を発揮する事となります。

喜多川歌麿

江戸時代になり欧米からラシャ(注)が大量に輸入されました。吉田弥十郎という刀鍛冶が現在の裁ちばさみを作り上げたと言われています。繊細なにぎりばさみ、力の入れやすい裁ちばさみ、それぞれの用途に応じて進化していったわけですから日本人の道具に対するこだわりや追及心は実にすごいですね。

(注)ラシャ(羅紗)とは、紡毛を密に織り表面をフェルト状にした厚手の毛織物。陣羽織、火事羽織、のちに軍服やコートなどに使われた。

和ばさみのはなし その二

今回は和服とにぎりばさみの関係についてお話ししましょう。

仕事柄たびたび和服の古着を購入しますが、古い和服のその丁寧な仕事には本当に驚かされます。

           喜多川歌麿 婦人手業繰鏡 針仕事

擦れて薄くなった着物の裏側に当て布がしてあり、目も眩むほどの細かい針目でとじてあったり、仮縫いの後本縫い、そしてその上に仕上げ縫い、と三重もの縫い目で整った美しい襟元。ほどいていく程に出会うその複雑な工程に驚くこともしばしば。壊して布の状態に戻すことがなんと大変なことか。

ただその仕事も手の中にすっぽりと収まるこのにぎりばさみがあれば手早く切りほどく事ができるのですから洗い張り(注)を主体とする日本の和服文化にはなくてはならない道具なのだと実感できます。

その後、8世紀に入りX型のはさみも日本に入ってきたのですが諸外国の様にすべてX型のはさみに占有される事なくにぎりばさみとしてその存在を残すことができたのは、ほどいて再び縫い合わせる、を繰り返す日本の和服文化と切り離せない関係だったからでしょうね。

(注) 洗い張りとは: 着物をほどいて反物の状態に戻し水洗いをして着物をきれいにする手法。かつては各家庭で年に何度か洗い張りをして作り直したりというリメイク、リサイクルが行われていたそうです。

和ばさみのはなし その一

ただ今冬季休業中につき和ばさみ(にぎりはさみ)について私の思う所を少しおはなしいたします。

お裁縫は遊びのようなもので物心ついた頃からいつもちくちく何かを作っていました。母の裁縫箱には使い込まれた黒いにぎりはさみが入っていてこっそり使っていました。

幼心にもこの道具は機能だけではなく何か独特の美しさがあるなと感じていて、その後自分で道具を買えるようになってからもこのようなにぎりはさみを選んで購入してきました。

あれから○十年。裁縫好きが高じてお店を始める事となりにぎりはさみについて改めて調べてみたのですが、この小さな道具、意外とすごい歴史がありまして。。。

ローマをルーツとするX型のはさみよりも時代は古く紀元前1000年、古代ギリシャの時代から使われているのです。下の写真は大英博物館で見つけたもの(このいきさつについては2019年10月21日のイギリス編でも紹介いたしました)。

日本では6世紀古墳時代に大陸から伝来、国内で現存する最も古いこの形のはさみは鎌倉の鶴が岡八幡宮、北条政子の化粧道具の中に観ることができます。

その後ローマの支配拡大とともに大陸でのにぎりはさみはほぼ姿を消し、ここ東の果ての国にこの小さな道具は残ったのです。

この話の続きは次回 和ばさみのはなし その二 へつづく

新春に寄せる思い

「私もこんなの作っているのよ」と言ってお手製の布バッグや見事な刺繍のポーチをそっと見せて下さるお客様が時々います。子育ての傍らや一段落された方など様々ですが、特技を活かしていつかは自分のお店をやってみたいと考えている人は案外多いですね。

昨年は思うように事が進まなかった一年でしたが、こんな時はもしかすると何か新しい事を始めるチャンスかもしれません。新型コロナが終息し再び街に人があふれる様になった時はどんな世界が始まるのかなと想像すると少し明るい気持ちになります。

今年はそんな年になると良いですね。

きんちゃく 2400円、 針山 700円

定規  200円、 にぎりはさみ(美鈴、江戸菊) 1850円

本年度の営業は3月中旬からを予定しております。

トレジャーハンター

お店を始めて早4年。軽井沢という土地柄か近くに人気のレストランがある所為なのか、たまたま通りがかってこの店に入ってみたと言う方が多い中であえてうちのようなレアな店を目的地に定めて来られるお客様もいらっしゃいます。

入店されるなり「やっと来れたわー」の一言。そうですよね、営業日は土、日のみ。オープンは8時30分と雑貨屋としてはあり得ない早朝からの営業でクローズは3時。長い渋滞の末にやっと軽井沢にたどり着いたお客様にとって3時の閉店は厳しいですよね。

ただ、困難であればある程、必死に来ようと努力されているそんな方に伺ってみると次から次へと出るわ出るわ私の知らないお店の名前が。森の隠れ家レストランや土地勘がないとたどり着けない様なレアなピザ屋などなど、さしずめトレジャーハンターの様な人達。ホント、有難いです。

本年はコロナ禍の中お越しくださいましたお客様には大変感謝申し上げます。

本年は12月26日(日)までの営業。

1月~3月中旬までは冬季休業となります。

来年も皆様のご来店を心よりお待ちしております。

炎の傍らで

炎を見ていると人々は太古の昔から火とともに暮らしてきたのだ、という事が頷ける。メラメラとゆらめく炎は部屋だけでなく心も暖めてくれる。

思えばかれこれ30年近く薪ストーブとともに暮らしてきた。室内での冬の思い出のほとんどが燃え盛る炎とともにあった様な気がする。

着火剤の上に小枝を重ねライターで火を付ける。小さな火種を大きな炎にするには火を熟知したものでなくてはわからない手順が必要。何段階かのプロセスを経たうえで、とうとうと燃え盛る炎の塊を安定した炎にするために空気の流入を調整する。炎は時間をかけてゆっくりと妖艶な精霊と化し時として神のような姿を見せる。

そろそろ冬将軍の到来、軽井沢の冬は来年の4月まで長い。でもこの薪ストーブは長い冬も怖くないと思わせてくれる。

からまつの小道

すっかり葉も落ちて姿を変えた追分の森。枝だけになって見通しが良くなった小道の奥に夏場には見えなかった遠くの建物や落葉掃きをしている人の姿が見えてきます。

足を踏み出す毎にサクッ、サクッとこの季節ならではの独特の音は軽井沢に多く見られるからまつの落葉の音。

少し油分を含んだからまつの葉は朝露に濡れていても「濡れ落ち葉」などと言う言葉とは無縁で靴の裏に貼り付いてくることはありません。ふかふかのビロードの絨毯の上を歩いている様な不思議な感触と抗菌作用のある独特の香り。

小鳥のさえずりも消えた晩秋の森にそれはただひたすらにサクッ、サクッと葉を踏む足音だけが響き渡るのです。

新しい思い出

どこよりも早い紅葉が見られる軽井沢。そろそろ見頃もすぎましたけれど、さあこれからがいよいよクリスマスシーズン!

今年は手作りの雪のオーナメントを店内一杯にお手頃価格にて取り揃えております。数年前から集めているビーズバッグのコレクションやちょっと古めかしいアクセサリーも充実してきました。

時折お客様が棚のビーズバッグを手に取りながら「私もこういう物を持っていたのよね。全部処分してしまったけれど…。」 そんなつぶやきが聞こえてきます。ちょっと断捨離し過ぎましたかね。

空っぽになった引き出しにまた新しい思い出を詰め込んでください。

くるみを求めて

いつの間にか秋も深まりこの時期ならではの食材が出始めました。中でも地元産のくるみを使ったスイーツは私の大好物。くるみにはオメガ3や抗酸化物質が多く含まれているらしく、美容や健康、認知症にも聞くとか・・・。

私の場合はそれだけではなく製作に絶対欠かせない材料なのです。

なつめクラフトのオープン当時からの定番商品になっているくるみの殻を使った様々なアクセサリーや針山等。

これから年末にかけて直売所やマルシェに行って美しい殻を探す日々が始まります。長野県は日本一のくるみの産地。

くるみの実は雄花先熟品種と雌花先熟品種があり、それぞれ実の形が違うのです。

左の尖っている方が雄花、右の丸い方は雌花です。私が探すのは真ん丸の雌花の方。白くふっくらした殻を探して直売所で念入りに品定めしている私の姿は周囲から見るといささか異様に映るかもしれません。

今年のくるみの「殻」の出来はいかがなものでしょうね。

いつでも青空

日々の製作の合間をぬって自宅周辺を散歩するのが日課となっています。気持ちの良いお天気の日に散歩コースの一つである「笑い坂」を御代田町方面から登って来て軽井沢町に入ったとたん、にわかに雲行きが怪しくなり小雨が降ってくることがあります。昔の人はこんな風に気候が変わる場所を集落の境界に定めたんだなあ等と思いながら帰宅します。

御影用水路

軽井沢という所は曇りや霧の日がとても多いのです。そしてそれが魅力の一つでもあるのですが。そんな我が家に一枚の絵が届きました。辻井英里さんの青い空を描いた20㎝程度の小さなアクリル画。先日娘と行ったセゾン現代美術館のミュージアムショップで見つけた小さな絵。印象的な青空に惹かれ思わず購入してしまいました。

と言うわけで我が家のダイニングには毎日とびっきりの青空が望める小窓が出来たのです。