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はじめの一歩

東京に住む娘から突然、連絡が来た。「Tいちがまた熱を出した。保育園を休まなくてはならないが、もうこれ以上会社休めない。母さん来てくれ。」

早速、荷物をまとめて娘の住むX駅まで行くことになった。ここまではよく聞く話だが私には一つ問題がある。生粋の長野県人である私は東京に住んだ経験が無い。つまり娘の住むアパートまで一人で行くことが出来ないのだ。(私の様な地方人には以外と多い。)

娘の住むX駅に行くには東京駅を含め3回乗り換えねばならない。とりわけ新宿駅が最大の難所。急きょ夫とその場に居合わせた次女とで対策チームが組まれる。「新宿駅乗り換えは母さんには無理だ!」私も以前、家族と共に新宿駅の構内を歩いた経験はあるがあそこはまさに伏魔殿。降りたら最後、迷宮入りしそうだ。

秋晴れの朝、軽井沢駅から新幹線に乗る。一人で乗る機会がほとんど無い私はやや落ち着かない。東京駅に着く。言われた通り新幹線改札を出てオレンジを目安に中央線のある1・2番線へ、恐る恐る乗り込む。「無事に乗れたか?次はここで‥」ひっきりなしに来る夫や娘からのLINEで景色を見る余裕も無い。K駅で下車。そこからバスに乗り換えてようやく一息ついた。見覚えのある並木道が続く。「東京は地方に比べ子供の割合が多いなあ」などと考える余裕も出た頃、程なくアパート近くの降車ボタンを押す。

バス停には、娘夫婦と共にTいちが元気に迎えに来ていた。「なーんだ、元気そうじゃないの」笑い

門前の大倉庫

長野県立美術館で今週末まで開催の「ジブリパークとジブリ展」は想像以上の内容で大満足。上機嫌で長野駅まで2.5キロの道のりを歩いて下ることにした。途中、善光寺を抜けて参道に出る。高校時代、長野市に通っていた私がこの辺りを歩くのは実に40年ぶりの事。

八幡屋礒五郎前 

土蔵造りの店舗が立ち並ぶ、石畳みの表参道。古民家はカフェにリノベーションされ長野オリンピックを境に驚くほど美しい街並みに変わっていた。

権堂商店街

途中、アーケードが美しい権堂商店街に立ち寄る。およそ観光とは縁のなさそうな商店が並ぶレトロな街並み。見覚えのある看板が今も残っていてなんとなく嬉しかった。昭和の雰囲気が残る照明や原色の昇り旗がアーケードを飾る。ほんの数時間前にジブリ展で見た、細長い回廊や天窓が広がる大倉庫とどこか景色が重なる。不思議な気分だ。少し歩くと左にロキシーの映画館が今も昔のままの姿で営業していた。明治時代に芝居小屋からはじまった日本最古級の木造映画館は、増改築を繰り返しながらも骨組みは明治時代の姿を保っている貴重な文化財でもある。正面のチケット売り場が時代の雰囲気を感じさせる。

長野相生座・ロキシー
 阿部レコード店

こちらは阿部レコード店。学校の帰り道何度か立ち寄った思い出がある。「ふふっ、今もレコード売っているかしら」(阿部レコード店は現在は演歌を中心にカセットが充実している)

更に進むとアーケードは一旦終わり、その先にあったのは善光寺門前油問屋三河屋。築170年の建物は現役を終え現在は展示館になっていた。暖簾をくぐり丁場を抜け、台所、中庭、そして一番奥にあったのは見事な蔵。さて蔵の中には‥

蔵(油問屋三河屋庄左衛門商店)

土湯のこけしさん

福島県土湯地方に代々受け継がれるこけし。土湯系と呼ばれるこけしは、東北地方に数あるこけしの中でも特に素朴な原形をとどめていると言われる。なで肩の胴にろくろの線で描かれた着物と柔和な笑顔。現代の住宅に合わせて、ちょっと小ぶりの六寸(18.5センチ)で揃えてみました。木の香が残る新品も良いですが、30年ものになると絵の具が木地に馴染んできて独特の味わいが深まる。こうなって来るともはや土産物の域を超えて存在感を増す。

パソコンデスクの傍らにこんな古風な娘さんがいてくれるだけで心は和むだろうな。今の時代にアンティークが求められる理由です。

太眉が特徴的な大内慎二作

雪見窓

妻籠宿(南木曽町)

まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり

これは島崎藤村「初恋」冒頭の一文。相手の女性は同い年の大脇ゆう。ここ妻籠宿脇本陣「奥谷」に14歳で嫁いだ。藤村は妻籠宿本陣の四男として生まれる。ゆうは隣の造り酒屋の娘、藤村の初恋はその頃の逸話だ。一緒になる事の無かった二人であったがその親交は生涯続いたらしい。

雪見窓(脇本陣)

客間から庭を臨む障子の囲いは雪見窓。この一枚だけガラスが当時物で微妙に揺らぐ大正ガラスがあの頃の景色を映す。囲炉裏の煙に燻されて檜造りの梁や天井は見事な飴色に変わっていた。アンティーク店を営む私としては、宿場丸ごと骨董品に見えてならない。

囲炉裏端とガイドの女性(脇本陣)

おぎのやにハチロクが無い

おぎのやでハチロク(4月1日掲載)の続き話ですが‥先日気になる事が。おぎのやを訪ねた友人の話によるとハチロクは売っていなかったとの情報が寄せられた。今週、私用で高崎からの帰り道にいつもの様におぎのや横川店に立ち寄ってみた。

売り場に着く「無い!」。シルエイティやポルシェなどのミニカーは沢山残っているのだが、ハチロクの限定版は一台も無い。そのかわり藤原とうふ店ロゴ無しの普通のトレノはズラリとならんでいた。

まさか私のホームページを見て皆がこぞって買いに行った訳でもあるまいし。試しにアマゾンで「トミカ イニシャルD 86」と入力してみるとかなりの高額で販売されている。なるほどそう言う事か。始めから転売目的で買って行った人も多いのかな‥今の時代らしいよね。ちょっぴり残念な気持ちが心をよぎる。そんな私も空の売り場を見てふと「あの時もう少し買っておけばよかったかしら。」などと思っているのだから笑える。

蝶の楽園

小諸市にお住まいの昆虫写真家、海野和男さん。10年前から小諸高原美術館にて毎年開催されている写真展に行ってみました。 

今回の写真展は第1展示室ではカブト・クワガタの肖像を展示。第2展示室では「蝶・舞う2019-2021」その他20代を中心とする若い昆虫写真家の作品など盛り沢山の企画。

静かなギターの演奏が響く館内。昆虫の写真を前に談笑するご年配の方やカブト虫の写真を食い入る様に眺める夏休み中の子供達。鮮やかな夏の花とそれに負けないくらい色鮮やかな蝶達の乱舞は遠い南の島に迷い込んだ様な‥と思いきやコロナの影響でほぼ半分の写真は日本各地の島々や小諸周辺の蝶達。良く見るとアザミやフジバカマ、軽井沢にも自生している花々や見たことのある蝶やハチドリであった。海野さんが小諸市に居を構えた理由-ここは昆虫の宝庫だったんだ。夏のひと時、海野さんの楽園で癒される。

海野和男写真展は市立小諸高原美術館・白鳥映雪館にて8月21日まで開催されています。

クロちゃんにはこれがお似合い

2年前ホームページに掲載した、我が家にふらりと訪れる三毛猫のミケちゃんでありますが。夏の終わりと共に姿を現さなくなった理由は、おそらく近くの別荘宅の猫ちゃんだからでしょう。昨年は全く姿を現さなかった所を見るとコロナのせいで来訪を自粛した様だ。そのミケちゃんに代わって今年は春から新しい猫ちゃんがお目見え。黒猫のクロちゃんだ。(今回も勝手に名前をつけさせてもらいました)

餌台を狙うクロちゃん

毎朝必ず、裏庭の餌台にナッツ類をあげる夫。日中は庭の手入れにいそしむ私。クロちゃんはいつも定位置のシャクナゲの下でおそらくリスを狙っている。茂みにすっぽりと身を隠しているつもりの様だが、リスや小鳥達にはバレているから笑える。最初の頃はクロちゃんに近づくとすぐどこかへ逃げてしまったが、ほぼ毎日会っているとお互い慣れてくる。そのうち接近しても動じなくなり「やあ」っと声をかけると歩み寄って来たりする。こうなってくるとなんとなく可愛い。

クロちゃん立ち姿

クロちゃんはミケちゃんに比べると一回り大きくてややおっとりしている。おそらくリスはおろか子ネズミも取れないだろう。 そんなクロちゃんではあるがさすが別荘の猫。身のこなしはエレガントでビロードの様な真っ黒い毛並みは品がある。見ていてふと思いついた。「首に銀色に光るチョーカーを付けたらきっとお似合いだわ。」早速ビーズを編み込んでこんな感じに仕上がりました。どこにも無いビーズのキラキラチョーカー。クロちゃんにプレゼントしたらどんな顔をするかな。

ビーズ編みのチョーカー

M 2800円〜 L 3300円〜 

使用するビーズ等によって値段が異なります。

十九夜

中山道塩名田宿の中にある、河原宿と言う所はどことなく風情がある。中宿の辺りは道路が拡張されてどこか味気ない印象を受けるが、河原宿の路地に入った途端に時間を遡ったような不思議な感覚に陥いる。

お滝通り

千曲川の渡し場まで緩やかに下る道はお滝通りと言われどこか情緒的な佇まいで、三味線の音や三階の手すりに細い肘を掛け眼下を望む女達の姿が見えるような‥そんな花街の幻影を感じる。芸妓宿の脇からは清らかな湧水が流れ、板張りの休み茶屋がしつらえてあった。湧水の傍には十九夜と書かれた石碑と、原型をとどめない程すり減った観音様が鎮座する。この十九夜塔だが佐久地方や小諸周辺を散策していると時折古い集落の片隅に見られる。

十九夜塔と如意輪観音

十五夜、十七夜、二十三夜などこれらは日本各地に残る講の一つで、十九夜は安産祈願や穢れからの救済を願う女性達が如意輪観音を信仰し念仏を唱えた事から始まる。ここ塩名田宿では旧暦の4月19日に女性達が集まってお祭りが行われていたらしい。かつては家からなかなか出る機会の少ない女性達の数少ない娯楽の場であったのだろう。

十九夜塔から更に下ると千曲川の渡し場に着く。中山道で唯一千曲川と合流する塩名田宿には船橋(注1)が架けられていたが、ひとたび大雨に見舞われると橋は流され旅人はいく日もここで逗留する事になった。昭和の時代になってようやく架けられた中津橋。川の北側には舟つなぎ石が今も残る。

中津橋
舟つなぎ石

ここ中山道塩名田宿は、江戸から数えて23番目の宿。佐久平駅からは車で20分ほどの場所にあります。

注1 船橋とは、船を横に並べてつなぎ、その上に板を渡して橋としたもの。別名浮橋

二つの白牡丹

「白牡丹 李白が顔に 崩れけり」漱石

夏目漱石は胃弱で酒も多くたしなまれないが、白牡丹だけは別と言って愛した酒が広島にある白牡丹酒造。延宝3年(1675年)創業。広島では最古の歴史を持つ酒造メーカーで棟方志功や横山大観など数々の偉人をとりこにした名酒。聞きしに勝る甘口の酒。

白牡丹酒

もう一つ彼の小説「門」に記された格別の白牡丹がある。銀座四丁目にショールームを構えていた白牡丹本店。高級和装小物の店だ。

寛政2(1790)年の創業でもともとは白粉から始まりその後、化粧品、バッグ、アクセサリーなども扱う様になっていった。(2000年代に閉店)

都内にお住まいのご婦人は、母娘と代々白牡丹と言う方もいれば、「いつかは白牡丹でバッグを」と憧れの店だったと聞く。

白牡丹ビーズバッグ(店内で展示販売中)

銀座白牡丹のロゴの入ったビーズバッグ。他とは少し違う上品なデザインと優雅な装飾金具。こちらは昭和の女性をとりこにした銀座の白牡丹。

星空の街臼田にある一番

晴天のドライブ、軽井沢から佐久市を抜け臼田町方面へと向かって行くと蓼科山の方角、山の中腹に何やら丸い白い物体に気づく。

その正体はJAXAが運営している臼田宇宙空間観測所内にある日本で一番大きな直径64mのパラボラアンテナ。惑星探査機はやぶさのバックアップで有名になりましたよね。私が大好きな場所です。

元々は、ハレー彗星探査機「さきがけ」「すいせい」の電波受信用につくられたようですが、火星探査機「のぞみ」小惑星探査機「はやぶさ」等惑星探査機との通信用観測所として日々、宇宙からの様々な電波を受信するだけでなく送信設備も持つ通信アンテナ設備です。

突然現れるパラボラアンテナ

観測所へは、臼田駅から県道121号線山道を車で登る事40分。突然目の前に現れる巨大パラボラアンテナの大きさは想像以上。宇宙に向かって真っ白なお椀を広げる姿はまるで映画「コンタクト」。初めて見た時の驚きは忘れられません。ただ‥ただ呆然とパラボラアンテナとその先にある宇宙を見つめ続けたあの時の記憶。

臼田宇宙空間観測所の直径64mパラボラアンテナ

こちらの施設には、研究棟が併設され24時間信号電波を受信し相模原の管制センターに送られた後、再び戻された指令データはコマンドに変更されてアンテナの動作制御が行われています。更に施設内には展示棟もありアンテナの仕組みの解説やJAXAのコーナーなどもあり興味深い内容となっています。

展示棟内部

この後継となる新たな観測所が1.3k mほど離れた同じく佐久市の美笹にある美笹深宇宙探査用地上局です。2021年3月に蓼科スカイライン沿道に完成した新型は臼田のパラボラアンテナより若干小さい直径54mですが、性能は今まで以上。天空にそびえる巨大なアンテナ。こちらは少し洗練されたスタイルが美しい。

どちらも宇宙からの微弱な電波をキャッチするために、余計な電波が入りにくい市街からだいぶ遠い山中にありますが、一見の価値有りです。これからのサマーシーズンお子さんには是非見せてあげてほしい私イチオシの場所です。

美笹深宇宙探査用地上局