
本通り商店街の駐車場に車を止めて、お土産の詰まったスーツケースを抱えて踏切を渡り、百数十段の階段をのぼる。額から一気に汗が噴き出した。途中一休みして振り返ると、瀬戸内海を挟んで向島の造船所のクレーンや工場の赤茶けたトタン屋根やら民家の瓦が幾重にも重なって、尾道独特の風景を醸し出していた。

ようやく辿り着いた「せとうち湊のやど島居邸」は瀬戸内海を望む小高い斜面の途中。明治期この地を所有していた豪商島居家の古い洋館をリノベーションしたモダンな館。

千光寺のロープーウェイからの眺めも素晴らしかったが、ふもとから一段一段、坂を登ってこその尾道だ。脇には無数の路地がまるで毛細血管の様に家々を繋ぐ。
天寧寺の石段に腰を下ろして眼下を眺める。そこかしこに風情のある生垣、石畳に囲まれた家々、街中に点在する寺院や墓石でさえもそれ自体がまるで生き物の様に呼吸している。

「尾道に来たんだ。」感慨もさることながら、差し当たり気になるのは、これ程の石段日々の買い物はどうしているのだろう?上下水道は?緊急車両や宅配は?と次々と疑問が湧く。聞く所によると、先日も冷蔵庫を麓から担ぎ上げたとか‥尾道のお年寄りは足腰が達者と自慢する。

そこまでして尾道に住む理由がここにはある。その理由をもっと見つけたいな。そんな思いに駆られた。