明石海峡大橋を渡り淡路島に入る。瀬戸内の穏やかな海沿いに続く平坦な道は淡路瓦の民家と時折現れる洋食屋以外に視界を遮るものはない。島独特の穏やかな時間に変わっていく。ふっと肩の力が抜けた。
おのころ島伝説のある淡路島。日本の始まりを見たくて花の季節、淡路を訪ねた。島中に点在する様々な神社仏閣。名所と言われる所は時間の許す限り回ってみたが良い意味で当てが外れたと言うか、思ったほど淡路の神は存在を誇示してこない。むしろ人々の暮らしに近すぎるのだ。民家のすぐ横に祀られる小さなほこら。無数の鳥居が見下ろす漁港。お伊勢さんとか恵比寿さんとか、ここは神様をまるで町内会の重鎮を呼ぶような親しげな空気が漂う所だ。
旅の2日目。今回の旅の目的地、沼島に渡るため土生(はぶ)の港へ向かった。南あわじは一面のタマネギ畑と漁港の町。北淡よりも更にゆっくりとした時間が流れる。この日は沖合からの湿った空気と高温で春特有の霧が立ち込めていた。「こんな幻想的な景色もまた綺麗だわ」などと思っていたら「10時半の便は霧の為欠航ですぅ」と乗務員の声。エッと動揺してスマホ片手に頭を抱えているのは本土からの観光客だけで、島民は係の人と親しげに言葉を交わして笑顔で帰っていく。彼らにはプランBなんて無い。今日の予定は中止。ただそれだけなんだな。
神戸に隣接した華やかな明石の海、瀬戸内の穏やかな内海、活気ある漁港、複雑に入り組んだ入江、海沿いの丘に立つ風車、鳴門の渦潮。淡路の暮らしは実に穏やかで、海は美しかった。